「やっぱり亀ちゃんて、よくわかんないよね」


美貴がそう言っても亀ちゃんは面白いぐらいにノーリアクションだ。
いつものようにぼーっとしたまま、数秒たってから口を開いた。

「え?え?そうですかぁ?わかんないですか?
 どこがですか?」

どこがって、それがわかってたら「わかんない」なんて言わないじゃん。
わかんないし、やっぱり変。
でも、突っ込みどころ満載のこの子と話すのが疲れないのは何でかな。

答えることも無いので黙って目の前の料理を口に運ぶ。
それに倣うように亀ちゃんも食事を再開した。

「まずっ。やっぱまずい、ここの料理。」
「そうですか?絵里はおいしいと思うけどなー」
「美貴、亀ちゃんの味覚も理解できないや。」

「そうかなあ。あっ、じゃあこっち食べてみて下さい、ほら」
そう言って差し出す料理も、美貴がこの前頼んだやつ。不味いのはわかってる。

目の前の彼女が亀ちゃんでなければ、いらないってハッキリ言えるのに。
一口食べて、やっぱり不味いから皿を返した。
飲み込んでも残る妙な臭みを飲み物で消す。
調子狂う。

美貴にとって、ペースを崩されるのは腹立たしい事の筈。
なのにどうして亀ちゃんの行動に苛立ったりしないんだろう。

ああ、モヤモヤする。何か変。きっとこの不味い料理のせいだ。


「ねえ、それ食ったらもう出よ」
「えー?もう帰るんですかぁ?」
「亀ちゃんウチ来なよ」

「え、待って絵里、なんにも持ってきてないし…」
「じゃ、もー帰る?」
聞き返すと、口を尖らせて黙り込む。いつも思うけど見事なアヒル口。
唇薄いよね、亀ちゃんて。

「だから早く食べちゃって」
「えーでも絵里、コンタクトとかぁ…」
「消毒液ならコンビニで売ってるじゃん」
「着替えとか…」
「別に嫌ならいーって」
「…行きたいけどぉ…だって急だから…」

なんだよもー、うざいな。


「…絵里今日、下着可愛くないんです」

「どーでもいい!行こ!」
伝票を取って亀ちゃんを急かす。
下着とか、すっげーどーでもいいから。
どーせ衣装替えの時に見てんじゃん、上下違うのとか(最悪)

「ほらー早く、つーか残しちゃえば?そんなまずいの」
「絵里は残しません」

「…うん、そーゆーとこ好き」


「だからさ」

早くおいでよ、美貴の部屋。




◇  ◇  ◇






「亀ちゃんて…いつも何考えてしてんの?」
乱れた息の合間に藤本さんがそう呟いた。
フツー、してる時にそういう事聞きますか?

「誰か好きな人の事、考えてたりする?」

「そんなの、考えない…。
 藤本さん、は、考えるの?」

「…考えるわけないじゃん、亀ちゃんとしてるのに」
「絵里だって、そーです…」

「よかった。さすがにさー、他の人の事考えながらセックスとか、美貴やだし」


ほんとかなぁ。

そう答えたら、肩をがぶりと噛まれた。
もう、あと残っちゃったらどうするんですか?


聞き慣れてきた藤本さんの声。
見慣れてきた藤本さんの身体。
麻痺してきた複雑な感情。

してる時は、何も考えてない。
苦しくなっちゃうから。


きっと藤本さんが考えてる以上に、絵里は藤本さんのこと好きですよ?
藤本さんを独占したい、なんて思ってないけど。

絵里の知らないところで、誰かに触れられてるのはやっぱりちょっと悔しい。


「…美貴様はぁ、好きな人が多過ぎるんです」

「そ…っかな、ぁ」

「そーなんです。…そーなの…」


…そうかなぁ。

そう言うから、今度は絵里が噛みつき返した。
その内誰かが気付くように。あとが残るくらい、きつく。
これ誰のって、聞かれて困ってる藤本さんを想像して。






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