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 -3- 




「今日、遅くなるかも」
 
 今朝そう言って出勤したきり、梨華ちゃんが帰って来ない。
 あたしがバイトから帰ってもまだいないし、何の連絡も無い。
 今まで日が変わる前に帰って来なかったことなんて無いのに、もう2時だ。

 楽しく飲んでるんだろうけど、もしかしたら何かあったのかもしれないとか
 見るからに酒弱そうだし持ち帰られてんじゃないだろーかとか、
 抜けてるからまさか事故やら事件に巻き込まれてんじゃないかとか気が気じゃない。
 飯を一緒に食わない以上、梨華ちゃんがあたしに連絡する必要なんて無いんだけど、
 それでも何か一言ぐらい、連絡入れてくれればいいのに。
 梨華ちゃんのメール不精も、こうやって時々淋しくなる。

 あたしの場合、意外とマメだよねとかよく言われるけど
 それって淋しいからで。
 誰かと繋がっていたい。メールでもなんでも。


 梨華ちゃんのいないこの部屋で、久しぶりにものすごい孤独感。

 火事になる前は、一人だったじゃん。しばらく彼氏もいなくて。それでもやって来れたのに。

 なんだよなんかすげー淋しいよどうしよ。ちょい涙目なってきた。


 梨華ちゃん、まだかなー。

 やっぱ、何かあったのかもしんない。


 とにかく落ち着かないのでコーヒーでも飲もうと立ち上がった瞬間、
 ガチャッと玄関の戸の開く音がして。
「たぁだいま~」とかかなり酔っ払った感じの声がして。
 あたしはむかついたからその場にもっかい座り込んで、
 出迎えずにリビングのドアが開くのを待った。

「ひ~ちゃんただいまー!」
 ちらっと横目で見た感じ、かなり上機嫌みたい。
「…遅いじゃん」
「あ~なんかねぇ盛り上がっちゃって~」
「…ふーん」
「…あれぇ?…ひーちゃん、なんか怒ってる?」
 あたしの態度に梨華ちゃんは、少しだけテンション下げて申し訳無さそうに尋ねて来た。

「別に。」
「ごめんね?心配した?」
「別に。」
「淋しかった?」

「…別に」
 うそ、すっげえ淋しかった。
 思いっきり強がってんのが分かったのか、梨華ちゃんはいきなり後ろから抱きついてきて、
 ぐしゃぐしゃに頭を撫でられる。

「ちょ、なに!」
「ひ~ちゃん、カワイイね」
「なんでだよ意味わかんない」

 こんなの嫌なのに恥ずかしいのに、何か動けなくて。
 あたしはされるがままに、梨華ちゃんの腕に顔を預けた。
 
 酒くさ。
 でも、微かに梨華ちゃんの匂い。

 あー、安心する。

 梨華ちゃんてこんなにも、でかいんだなあ。あたしの中で。

「…ひぃちゃん」
「ん」
「ごめんね?」
「…なにがって」

 まだ強がるあたしを、梨華ちゃんは更に強く、めいっぱい抱きしめた。
 酔ってるからかな、身体が熱い。

「…別に、謝んなくていーから」
「うん…」
「…メールの一通くらい、してよ。」
「うん」
「珍しいから、心配するじゃん」
「ありがと…ごめんね?
 でも、大丈夫だから。今日は柴ちゃんと… 」

「あー!!」

 急にたっかい声で叫んだかと思えば何やらまず~い顔をしていて、
 それと同時にまたドアの開く音がして、
「梨華ちゃーん、無理ならいんだけど…」
 と言う声。開け放しのリビングから見える玄関には女の子が一人。

「ごめんね!柴ちゃん!忘れてた!ごめんね!」
 梨華ちゃんは慌てて女の子の方へ駆け寄り、必死で謝る。
 柴ちゃん?柴ちゃんて、梨華ちゃんがいっつも柴ちゃんが柴ちゃんが言ってるあの柴ちゃんか。
「いいよ何かやっぱあたし邪魔みたいだし。漫喫泊まるからさー」
「ちがうのちがうの!ごめんね!」 


 どうやら、盛り上がって終電逃した結果泊まることになったらしいが、
 一応あたしの許可を取るため玄関先で待たせていたらしく。
 そんな話題微塵も無かった会話の間じゅう、放置してしまってたみたい。

「てゆーか、忘れてたとか結構ありえなくない?」
「だって飲んでるからさぁ、ちょっと…ねぇ」
 いや、ありえないありえない。あたしのせいでもあるけど、忘れてたはひどいでしょ。

 帰ってからもまだコンビニの酒とつまみで飲み続ける二人、なぜか付き合わされるあたし。
「まったく人待たせといてさーイチャついてんだからびっくりしたよ」
「も~ごめんってばぁ」
 いや、イチャついてないから!てゆーか否定して梨華ちゃん!

 かなり突っ込みたいところだけど、酔っ払い相手だし…まあいーか

 
 梨華ちゃんの親友・柴田さんは、かわいー人だ。明るくて優しそう。

 今日近くに用事があったついでに会うことになったらしいけど、もともと日帰りの予定で
 明日の朝には帰らなくちゃいけない、と言った。
「ほんとはもっと時間あったらよかったんだけどね~
 まあでも噂のひーちゃんを見れたからよかったよ」
噂のって…だから梨華ちゃん、中澤さんにしろ柴田さんにしろあんたどんだけ話してんだ?

「で、どう?どう?…感想は?」
「う~ん、いいね梨華ちゃん、いいの捕まえたね!」
 いやソレ本人前にしてする話じゃねーだろ。てかなにその感想おかしくない?
「でしょぉ?…ひーちゃんて、優しいしおもしろいしカッコいいし可愛いし…」
「ちょ、梨華ちゃん。ヘンなこと言わないで」
「も~ひーちゃん照れ屋さん♪」
「はあああ?うっぜーー」
「もぉ、すぐそういうこと言う…」
「あはは梨華ちゃんうざいって」
「…柴ちゃんまでぇ~」
 なんなの、なによ…とか言いながら、
 さっきからウトウトしていた梨華ちゃんはソファーに寝転がるとすぐに眠ってしまった。

「あれ寝ちゃったよ…」
「まあいーや二人で飲もうよ、よしこちゃん」

 既に相当できあがってる感じの柴田さんにそう誘われて、
 ちょっと心配だけど飲みたい気分なんだろうと思って付き合った。

 話は自然と梨華ちゃんのことばかり。

 呂律も回らないほど酔っ払った柴田さんの話は脈絡の無い分かりにくいものだったけど、
 梨華ちゃんのことが大好きなんだろーなというのがすごく伝わってきた。


「今日もさーよしこの話ばっかりでさぁ。
 なんか、いつも柴ちゃん柴ちゃんで、ずーっとあたしのものだったのにさ」

 梨華ちゃんの隣に寝転んで、愛しそうに頭を撫でながら話す 
 柴田さんの表情はあたしには見えなかったけど。


「あ~~あ。梨華ちゃんも、『柴ちゃん』離れしちゃうのかなー」

 明るく言い放ったけど、ちょっとだけ悲しそうな声で。


「…だいじょぶ、ウチではいつも柴ちゃん柴ちゃんだから」
「…マジでぇ?」
「今日朝すっごい嬉しそうに出てったし」
「……ふーん」 

 少し間を置いて起き上がった柴田さんは、片肘をついて考え込む仕草を見せた。
「でもさぁ、梨華ちゃん、よしこ大好きでしょー」
「ん~…まあ、そうみたい」
「…ちょっとさあ、ちょっとだけ癪なんだけどさ」

「梨華ちゃんは、二人のものってことで」

 柴田さんはどこか嬉しそうで悔しそうな、そんな表情で右手を差し出した。

「…じゃあ、そーゆーことで」
 あたしはその手を固く握り締めて返事をした。

 酔ってるけど、ちゃんとわかってる。忘れないよ、柴田さん。


 それから少しだけ酔い潰れた状態で寝て、
 朝方ものすごい気持ち悪そーな柴田さんを駅まで送った。

「ね、ほんとに大丈夫ぅ?」
「う~ん結構キツい…。でも頑張って帰るわ…」
「ね、気をつけてね?やばかったら途中で降りるんだよ?なにかあったら、駅員さんとか、
 通りすがりの人でもいいからちゃんと言って、ね?」
 心配していつまでも手を離さない梨華ちゃんに柴田さんは、電車が来るから、と言って
 二日酔いながらも明るい笑顔でじゃあね~と元気に手を振った。
 よろよろと改札に向かい、一瞬立ち止まって何か思い出したように振り返る。

「よしこー」
「え?」

「約束ね~」

 言いながらやっぱり明るい笑顔で手を振って、自動改札を通り歩いてゆく。
「…はぁーい」

 梨華ちゃんは当然ながら、よくわからないといった風に
 あたしの顔と小さくなってく柴田さんの後姿を見比べていた。



「ねぇ、約束って何?」
 駅からの帰り道しつこくそう聞かれて、
 やっぱり酔った勢いで、ヘンな約束しちゃったかなーと思いながら軽くあしらう。
「はいはい梨華ちゃんには言えないことだから」

「何よー、何か、仲良くなっちゃって…」
 質問は諦めたのか、今度は口を尖らせて文句を垂れる。

 独占欲、強いなー。本気でいじけてやんの。

「だいじょーぶ柴ちゃんは、梨華ちゃんが一番だから」

 少し先を歩きながら振り向いて笑いかけると、梨華ちゃんもようやく笑顔になる。
「…そっか。ふふ、そーだよね」

 嬉しそーに笑う梨華ちゃんが可愛い。

 そうか、梨華ちゃんは、
 柴田さんと、そう、あたしのもの。


 あたしも少しだけ気持ちを伝えたくて。
 歩幅を縮めて、横に並ぶ。マンションまでの短い道のり、手を繋いで帰った。




  *  *  *  *  *




 あー、さぶいさぶい。
 少しだけかじかんだ手で部屋の鍵を開ける。
 マンションの中はあったかいけど、外から纏ってきた寒さはなかなか消えてくれない。
「ただいまー」
「おかえりぃ」

 あれ?
 玄関照明のスイッチを押しても、反応が無い。
「電気、点かないね?」
「そうなの、切れちゃって」
「明日電球買ってこようか?」
「あ、あのね替えはあるんだけど…
 ひーちゃんにつけてもらおうと思って、待ってたの。できる?」
「あーいいよ」
 あたしはそばに用意されていた脚立を広げて中段に立った。
 梨華ちゃんは懐中電灯であたしの手元を照らしながら、すごいねーなんて言ってる。

「廊下とか洗面所とか、オレンジライトっていきなり切れちゃうじゃない?いつも困るの」
「初めてじゃないの?」
「うん、ここ結構長いし」
「じゃ何で自分で付けれないの…」
 つくづく一人で生きていけていたのが不思議な人だ。

「いつも、人に頼んでたから」
 人に?

 変な言い回しだ。友達でもなく家族でもなく。
 彼氏ってことね。
 電球なんてそうそう切れるもんじゃないし、長い付き合いだったのかな
 付け替えもできないのにソケットに合った買い置きがあったのは、
 この電球も買っといてもらったってとこなんだろう。

 そうか、ふーん、そう。


「点けてみ?」
「うん、あ、点いたぁ!ありがとー」
「梨華ちゃんねえ…電球くらい」
「え?」
「…や、なんでもない」
「?ひーちゃん、ありがとね」
「ん。」


 キッチンに行き、あたしは夕飯はなににしようと冷蔵庫の中を覗いた。
 遅くなっても疲れてても、出来るだけ食事は作るようにしてる。
 バイトしてれば規則正しい生活なんて無理だから、なんてゆうかせめて自炊くらいはというか
 人として生活する上でなにかひとつはちゃんとしていたいと思う。
 それにしても梨華ちゃんは…

「梨華ちゃん…」
「なあにー?」
「今日、夜飯なに食ったの?」
「え?」
 ソファーで雑誌を読んでた梨華ちゃんは、顔を上げて気まずそーにこっちを振り向く。
「えーとねぇ……。やきそば」
「つくったの?」
「んー、ううん」
 ゴミ箱を開けるとカップ麺の空の容器。
 まぁーたこんなのばっか食べて…。

 梨華ちゃんだって仕事で疲れてないわけじゃないし、
 まあ現代女性でまともに自炊してる人もそんなにいないんだろうから、別にいいけど、
 さすがに少し心配になる。
 梨華ちゃんだって別に料理できないわけじゃないけど、何でも面倒くさがるのが悪い癖だ。
 20代女性が米すら炊かないなんてどうなんだろうと思う。

 あたしはソファーに近付いて、背もたれの上に腕を組んで肘を置いた。
 梨華ちゃんはちょっとだけ怯えたように笑う。
「梨華ちゃんさあ…」
「うん?」
「たまには何か作りなよ。いつもこんなんじゃ、体に悪いでしょ」
「でも、ひーちゃんと一緒の日は、いいもの食べてるもん」
「違うよ、一人のとき。
 一緒に食うときはたまに何か作ってくれるのに、一人だと何もしないじゃん」
「だってぇ…。めんどくさいんだもん」
「めんどいってさあー」

「いいの、ひーちゃんがいるから。」
「そりゃあたしがいるうちはよくてもさー。
 さっきの電球にしたって、あたしが出てったらどーすんの、そんなんで。
 掃除もできない朝も起きれない…」
「……」

 あれ?
 梨華ちゃんの表情が、曇っちゃった。

「ごめ、言い過ぎた」

「…なんで、そんなことゆうのぉ?」
「うん、ごめん。ちょっと心配でね」
 ごめんね。

 よしよし。


 あたしは、目の前で俯きがちに泣きそうになってる梨華ちゃんの頭を、出来るだけ優しく撫でた。
 それに顔を上げて、梨華ちゃんはソファーの上に膝立ちになり、あたしの肩に両手を乗せた。
 見る見るうちに梨華ちゃんの瞳から涙がこぼれてく。

 あー泣かせた

 ごめんね、ごめん


「ひーちゃん、出てっちゃやだよお」
「は?」


「出てくなんて、言わないで」


 おいおいそっちかよ!

「えと…梨華ちゃん…そんなことで…」
「そんなことじゃないもん!」
「いや、えーと」


「ひーちゃん、出ていっちゃったらやだもん…」

「梨華ちゃん…」


 泣くほど、やなの? 
 あたしといたいの?


 嬉しくて、胸が詰まった。



「もー…ばかだなあ」
「なによぉ」

「いるから」
「…ほんと?」
「梨華ちゃんが、いいってゆってくれてる間は居座るよ」
「じゃあ、ずっとだよ?」
「じゃあ、ずっと」
「ほんとに?」
「出てこうか?」
「いやー!」
「…フッ」


 梨華ちゃんは、「約束ね」と小指を差し出した。
 バーカ、んな恥ずかしいこと、出来っかよ

 と思っても、あたしの指は、ほらね。

 小さな小指を絡めとって揺らした。
 梨華ちゃんがゆーびきりげんまん…って歌う。


 嬉しそうにしちゃってまー。
 ほんと、かわいーなあ



 恥ずかしさで、身体がムズムズする。

 心の奥もくすぐったくなった。


 ずっと仲良しでいようね、なんて、幼い頃誰かと交わした指きりみたいに。

 小さな可愛い約束をしたと思った。




   *  *  *  *  *  



『 今日、行くから 』

 こんなメール1通でアポを取った気になるミキティはすごい。
 予告通り、日曜だってのに昼間っから部屋に乗り込んできた。

「今度亜弥ちゃんと来る、って言ってたじゃん」
「なんか亜弥ちゃん最近忙しくてさー」
「だからさぁ、暇なときあたし使うのやめてくんない?今日は予定なかったからいいけどさー」
「今日はそーゆーわけじゃないよ。この後約束あるし、ほんとすぐ帰る。寄っただけ」
 今日はって、じゃあやっぱりいつもはそうなのかよ…。
 訪ねてきてすぐに勝手にリビングのソファーにどかっと腰を下ろし、喋りながらも携帯をチラチラ。
「何だよじゃあ何で来たの?梨華ちゃーん、ミキティすぐ行くってー」
 キッチンでお茶なんか用意してる梨華ちゃんに声を掛けた。
「うそ、待って待ってぇ」とか言いながらカップとお茶請けを乗せたトレイを持って戻って来る。

「いや、うまくやってるかなと思ってさー。紹介したの美貴だし。
 何かなかなか来れなかったから、今日この辺で遊ぶからついでに寄ってこうかと思ってさ」
「あたし会社でお話してるじゃない」
「だってよっちゃんとは会ってなかったから。梨華ちゃんに疲れてないかなーって」
「なにそれぇ」
「あー疲れる疲れる。ずーっとしゃべってるしさー」
「ひっどーい、ひーちゃん、そんな風に思ってたのぉ?!」
 膨れっ面の梨華ちゃんに肩を軽くはたかれる。
「うそじゃん、うそうそ」

「なんだ、マジで仲良いね」
 じゃれあってるうちらの様子を見て、よかったよかった、と安心したようにミキティが言った。

 少しだけ携帯をいじって立ちあがり、
「じゃあ、悪いねー思ったより時間なかった、もー行かなきゃ。
 何か用意してくれてたのにごめんね、まあそれは仲良い2人でお茶してよ、じゃ」
 とまた速攻でまとめて、よっちゃん途中まで送って、と言ってあたしの手を引いて玄関へ向かう。
「あ、待ってあたしも…」
「ああへーきへーき梨華ちゃんはまた明日ねー」
「あーじゃ梨華ちゃん、ちょっと送ってく…」
 言い切らないうちにドアを閉められ、早足でエレべーターに乗り込む。

 ほんとに何しに来たんだろう…と思いながら様子を覗っていると、
 今度は少し張り詰めた声で、よかった、と呟くように言った。

「あのさ、梨華ちゃん…ちょっと、元気なかったんだよね前まで」
「ああ…」
「なんか聞いてる?」
「いや。でも拒食気味だったってのは聞いた」
「…そっか。何かさほんとちょっと見てられない、てぐらいな時あってさ…色々あって、
 あーゆー性格だから思い詰めちゃうじゃん。
 よっちゃんと住み始めるまでずっと死んでたんだけど」
 たまにすごくくだらない事で何日も悩んでいたりする。
 そんな梨華ちゃんだから、大袈裟な表現ではないんだろうと思う。

「でも、急に元気んなってさー、やっぱりよっちゃんのおかげなのかなーって確認しに来たの」

「…え、なんで」
 あたし?あたしのおかげって
「そうゆーのって時間の問題でもあるからと思ってたけど、
 もー最近よっちゃんの話ばっかでさー。楽しいよって言っててさ。
 今日見た限りほんとに楽しそうだったから。」
「そーなの?」
「うんうん。あのウザいテンション」
「あー」

 そーか、あたしの…そーか。
 やっぱ一緒に住んでよかった、かな。
 

「…梨華ちゃんにさあ前からよっちゃんの話ししてたじゃん、写メとかも見せてて。
 梨華ちゃん結構気に入ってたんだよねよっちゃんのこと」
 そーいや初めて会った時、やたら嬉しそーにしてたなぁ

「それでよっちゃんにもあんなことあったからさ、じゃあ一緒に住んじゃえばって。
 半分冗談だったんだけど、梨華ちゃんがまさか他人と住むわけないと思って。
 そしたら梨華ちゃんうんってゆうからさー。そんなに気に入ってたんだなーって。
 よっちゃんからしたらビックリしたろーけど、ごめんね」
「ビビったよぉ~。別に、いいけど…」

 別に、てゆうか、感謝してるよ。
 ありがと。

「でもよっちゃんも絶対梨華ちゃん気に入ると思ったし。ね?」
「えぇ?まぁ…嫌いじゃないよ」

「ふ~~~ん。…好きだろ?」
 何だよ、その顔。
 知ってんだよ、みたいな。言っちまえよ、みたいな。

「あー…す、好きだよ、ふつーに…」
「うん。がんばれよ、おーえんしてるよ」
 え、いやそーゆんじゃないし。

「違うから…」
「は?なに言ってんの、わかんだよよっちゃんのことは。デレデレしちゃってさあ~」
「してねーし!」
「素直に認めろよ~、てかもうちゅーくらいしてんでしょ?もしかしてもうヤっちゃった?」
「ヤっ…」
 てねえよ。ヤってねえけど、胸は揉んだな。
 つかミキティから電話来てなきゃしてたかもじゃん…。
 あああ、完全には否定出来ない…

「…ヤったのかよ…」
「いや!!ヤってはない、よ」
「え、じゃキスは?したの?」
「してない。だから、そーゆんじゃないって」
「あっそー…」

 ミキティはいかにもつまんねえなといった表情で、でも至って真面目に続けた。
「まあ、でも、少なくとも梨華ちゃんは本気で好きだと思うよ、よっちゃんのこと」

「え」
「よっちゃんなら信用してるけど。傷付けないでよね」
「え、え」


 戸惑いながら玄関ホールをのろのろ歩くあたしを置いて、ミキティはドアの前に立った。
「ここでいいよ。それだけ会って言いたかったから、じゃあ」
「え、ああ・・・じゃ」

「よっちゃん、約束ね」

 そんなこと言われても。
「……わっかんねえよ…」


「…よっちゃん、梨華ちゃん大事じゃないの?」




「…大事だよ」


「だったら、わかるでしょ」
「う…えぇ~?」

「もー、ほんとヘタレだな」
「うるへー」
「なんかしろって言ってんじゃないの。大事に思ってんなら、それだけでいいの。
 傷付けたくないって、思うでしょ?そしたらそうしなければいいだけじゃん」
「ああ…」

「頼むよー?」
「ん…わかった」

「じゃね」
「うん、じゃまた」


 マンションを出て階段を降りた先に既に迎えは来ていて、
 高そうな車に乗ってミキティはどっかへ行った。



  梨華ちゃんなぁあんたのこと随分気に入ってるみたいで。

  なんやめっちゃ嬉しそうにしてたで。ひーちゃん来てから家にいるのが楽しー、って



  でも、急に元気んなってさー、やっぱりよっちゃんのおかげなのかなーって

  少なくとも梨華ちゃんは本気で好きだと思うよ



 梨華ちゃん…




  大事にしたってな


  傷付けないでよね




 いや、ちょ、待って!


 あたしは一体なにを任されてるんだろう…

 会ってまだ、2ヶ月足らずの女友達ですよ?
 大事にするとかしないとか、ねえ…やっぱりあたしにゆうことじゃないんじゃ、と思うけど。


 そりゃあ大切な同居人だけど。好きだし、すごく。
 好きだけど。

 好きなら。


 …まあいーか、それで。


 うーん。


 やっぱりよくわからないと思ったけど、
 とりあえず部屋で待ってる梨華ちゃんに早く会いたくて
 あたしは駆け足でエレベーターに乗り込んだ。

 7階の距離さえもどかしい気持ち。今はきっとこれだけで十分。



  *  *  *  *  * 


 玄関ホールで一人あれこれ考えている間に、お茶はすっかり冷たくなってしまっていた。
 煎れ直そうかと言ったら、梨華ちゃんが映画見ながらお茶したいと言うので
 レンタルビデオ屋に行くことにした。


 洋画がいい、いや邦画がいいとか、アクションがいいコメディはいやだとかあれこれ物色する。
 コレは?なんて差し出したら、「それこの間テレビで見たじゃない」って、あれぇ?そーだっけ?
「ひーちゃん途中から寝てたんだよ」
 あれ~…?
「いいよ、どうせ今日も寝ちゃうんだよ」
「いや、いやいや見るよちゃんと。ごめんね」

「絶対寝るよぉ。ひーちゃんが映画最後まで見たことってほんとに少ないんだから。
 確かねぇちょっと前に見た怖いのぐらい」
 ん?何だろう?
 …ああ~、乳揉んだ日に見たやつか…
「いつも寝るのは構わないけど、せっかく借りるのにもったいないじゃない?怖いのなら寝ない?」
「いや、もう梨華ちゃんと怖いのは見ない。」
「え、なんでえ?」
「だって、見てんのか見てねんかわかんねーし…」
「見てるよ」
「キャーキャー騒ぐやん」
「じゃあ静かにしますぅ」

「…でも見ないよ。」


「何で?一緒に寝ようって言うから?」
 ……そーだよ、なんて言えない。なに意識してんだっつー話。

「ホラー苦手だし。」
「じゃ、何見る?」
「んー梨華ちゃんの見たいの、選んでよ。今日は絶対寝ないから。」
「…ほんとにぃ?」
「ん、寝ない」
 梨華ちゃんは途端に嬉しそうに、目の前の棚から、店の奥、新作の棚をキョロキョロと見渡す。
「えーー、じゃあねぇ…」
 見たかったものがあるようで、探すというより考え込むように、人差し指を口に当てて呟く。
 そんな梨華ちゃんの様子を見つめながらふと横にあった柱の鏡に目をやると、
 どうしようもなく緩んだあたしの顔が。

 やばいやばい、なにこの顔。
 もともとあたしの笑い顔はだらしないけど、でも、これはミキティにデレデレしてる言われるわ。

 恥ずかしくなって、無心に棚の上から下まで全タイトルを目で追う。


『恋に落ちたら・・・』


 あああこんなクサいタイトルすら意識しちゃうあたしってアホか


 しばらく一人で悶えているとその辺ウロウロしてた梨華ちゃんが戻って来た。
 手に何本かのDVDを持って、どれがいいかな~なんて言いながら歩み寄ってくる。
 特に口出しはしない。この人の場合ほとんど悩みたいだけって感じだもん。
 俯き加減にうんうん言っている梨華ちゃんを見つめる。

 可愛いなあー。
 顔もだけど、仕種とかいちいち可愛い。

 ああ、またあたしニヤケてんだろーなあ。

 でもかわいーもんなあ


 やっぱ好きだなあ。

 決めたっといって梨華ちゃんが顔を上げたから、鑑賞タイムは終わり。


 会計を済ませて家路を歩く。
 隣でまた梨華ちゃんが、仕事の話やら友達の話をぺちゃくちゃと喋ってる。
 あたしはいつものように半分くらい耳を傾けてたまに頷く。


 ちゃんと観るって約束したけど。今日は梨華ちゃんを見ていたい。
 寝るわけじゃないからいいよね。






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