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「ねぇ…よっちゃん」

「あー、なに」
「あのさー、……」


「いつまでここにいるつもり?」

「…ごめんなさいほんっとごめんなさい。」
 ああ、なにこの泣くに泣けない状況。




「だいたいさぁー木造に住んでたのが悪いよね」
「もう…わかったわかったから今週中にどうにかしますから」
「みきたん、よっちゃんかわいそうでしょー?」
 落ちてるあたしと責めるミキティとなだめる亜弥ちゃんと。
 あたし吉澤ひとみは今、幼馴染みの藤本美貴の部屋にお世話になっている。なぜかって、

 アパートが全焼したから。

 火元は一番離れた部屋で、不幸中の幸いかその時あたしは部屋にいて
 騒ぎに気付き早めに荷物をまとめて出れた。
 性格上部屋に家具以外の余計なもんは置いてなかったし、
 昔のアルバムだとか思い出の品系はみんな実家。
 被害は少ない方だと思うけど、それでも経済的にも精神的にも色々と、痛すぎる。
 命があっただけで万々歳なんだが、アレは相当ショックでかい。

 …はぁ。実際、ミキティに憎まれ口でも叩いてもらわなきゃ泣きそうだ。


 本当は、
 部屋は見つからないわけじゃない。
 敷金礼金無しのとこなんていっぱいあるし。
 まさに『カバン一つでお引越し』状態のあたしに打って付けなレオパレスなんてものもあるし。
 でもやっぱりトラウマとゆうか、なかなか一人暮しを再スタートさせられない。
 友達の家を転々とする、とか出来る程のあては無いし、
 大学で一番仲いーまいちんの部屋も何でってくらい学校から遠いし。
 ここにはもう3週間ぐらい居座っていて、今のとこ電車で二時間の実家から学校に通う気は無し…。
 ミキティがこっち出てきてこんなに感謝したことはない、いやあよかったよかった。

 ミキティとはその片田舎の実家が近所で小さいときからずっと一緒。
 あたしは4大入学と同時に東京出てきて、1つ年上のミキティがその1年後に地元の短大出て東京で就職した。
 大学も3年、こっち出て来て3年。
 まさか火事に遭うとは!


 ミキティの部屋はそこそこ小ぎれいな賃貸マンションで、ワンルームユニットバス。
 ミキティは彼氏んち行ったり友達とオールだったり、帰らないことの方が多いからベッドを借りてるけど、
 いる時はソファー。それもそろそろ限界が来た。
 しかも週1ペースくらいでミキティの親友の亜弥ちゃんが遊びに来るんだけど、
 また何か知らんがこいつら女同士でイチャイチャイチャイチャしやがって、
 いやもうホント出たいんだけど、出たいんだけど!

「ハァ…二人とも、ホントごめんね」
「いーんですよぉ別にー」
「てゆうかよっちゃんちょっと」
「ん…ん?」
「これ、このコどー思う?」
「は?」
 差し出された携帯の画面を見る。
 そこには一人の女の人の写真。
 見たとこあたしかミキティと同い年くらいで、観光地っぽい綺麗な景色をバックに笑っている。

 いやなぜこんなものを?
 どーって、どーって…

「美人…じゃない?てか、すげー可愛いね」
 粗い画像でもわかる、整った顔立ち。アイドルみたいな美少女顔。
 色黒っぽいけど、お嬢様とゆう感じだ。
「…ふ~~ん、…そっかよーしよし」
「…なに?」
「や、べつに。よっちゃんはどう思うかなって」
「あっそー…」
 誰が見ても、可愛いってゆーんじゃないのかな?
 てかなに人の答えにニヤニヤしてんの?
 何か企んでんのはいーけど、傷心のあたしを巻き込むようなことはすんなよ…






 て思ってたのに


 さっそく次の日ミキティの会社近くのカフェに呼び出され、
 あたしはイヤ~な予感がしてしょうがない。
 わざわざこんなとこに呼び出されるなんて…
 なんで外で会う必要があんのか?
「なに…こんなとこで話って」
「いや~悪い話じゃないからさ」
 いや~あんたにわざわ呼び出されて、悪い話じゃないわけないだろう。
「今来るから」
「え?は?」
「あ、おーい梨華ちゃ~ん、こっち」
 ミキティが軽く手を上げて視線を送るその先には。

 その先には…


 見覚えのある顔。??
 ああ!!昨日の写メの人!

 昨日見たばかりの笑顔で近付いて来る、上品そうなオフィスレディ…いや
 白いシャツにピンクのカーディガン、ピンクのスカートにピンクのバッグ…
 なんだこのピンキーな女は…


 不安が的中したことによるショックと、眩しいくらいの「興奮色」に頭が軽くクラクラする。

 でも、正直それ以上の衝撃が


 うおー、やっぱり実物もめちゃくちゃかわいー人だ…

 目なんかウルウルしてて、睫毛なんか、茶色い巻き髪と同じくらい、長くてクルックルで。


 なんだかよくわからないけどあたしはとりあえず彼女に軽く会釈をした。
 座ってティーカップを手にしたまま、そ~と~間抜けた顔をしていたに違いない。
 視界の隅でミキティがこっちを見てニヤついていた。
 なに企んでやがんだこいつ、まじで…


 ぼーっとするあたしにピンクな彼女は優しく微笑んで、ミキティに促され椅子に腰掛けた。
「えーと、同僚の石川梨華ちゃん」
「どうも…美貴ちゃんからお話は聞いてます。」
 なんのお話だよ、おい
「あ、えーと…どうも。あー…よ、吉澤です」
 なに緊張してんだよ、おい
「…大変だったでしょう。あ、大変だったなんて他人事みたい、ごめんね。その…」
 大変?ああ、火事のことか。いや大変だったし他人事だから気にしないで下さい。
「あのあたし、美貴ちゃんとは職場で仲良くしてもらってて。いつもお世話になってます」

 同年代なのに、随分丁寧に喋る人だ、と思った。育ちが良いんだろう。
 状況はまったく掴めないけど…とりあえずこの人は悪い人ではなさそう。とゆうか人よさげだ。
 ピンクの見た目だけじゃない、芯まで女の子なんだなー。
 言葉遣いもちゃんとしてて、小指たてちゃって…。うーんじっくり見てもやっぱり可愛い。
 てかなにのん気にお茶してんだうちら

「ま、そんな感じでさー梨華ちゃんとは結構仲良いんだけどね、
 よっちゃんの話とか前から何回かしたことあるんだけど。
 今回のこと話したら、梨華ちゃんとこ住んでもいいってゆうからさー」

 …は?


「あの、知らない人と住むなんて抵抗あると思うけど、やっぱり、
 でも美貴ちゃんのとこ2人じゃ狭いでしょ、他に近くには頼れる人いないって聞いて…」
「そーそー梨華ちゃんちね、よっちゃんの学校から歩いて10分なんだよー!よかったね!」

 …はぁ?


「あたしの部屋、結構広いの。
 色々と落ち着くまで暮らすぶんには、2人でも十分な広さだと思うから、」
「それでさー梨華ちゃんってすんごいだらしないの。
 だからよっちゃん家事やったげて!居候するかわりにさー」


 ちょ、ちょっと待ってよ、なに言ってんだこいつら!
「いや、あの……。…はぁぁ?」


「まーそーゆうことだから、よっちゃんは今日から梨華ちゃんち泊まってね。
荷物も今朝送っといたからー。じゃ梨華ちゃんよっちゃんよろしく!
あー見えて結構クチうるさいからさー、でも2人ならうまくいくと思うよ、じゃ、
今日亜弥ちゃん来るからもー帰るねー」

 そう強引にまとめて、ミキティはさっさと帰り支度をして立ち上がった。

 え、ちょ、待てよ!
 マジで何が何だかわからなくて、
 またぼーっとしていたあたしは慌ててミキティを掴まえた。
「ちょ…どうゆう…」
 ことだよ、と言い切る前にミキティの視線に遮られる。

「…よっちゃん。今日、帰ってきたら殺すから。」

 …げ。コレまじで殺されるわ。


「じゃ、がんばって!梨華ちゃん、明日ね~」
「うん、じゃあね、美貴ちゃん」
 ミキティはあたしの手をあっさり振りほどき、颯爽と出口へ向かって行った。
 向かいに座ってる彼女は、何を咎めるでもなく笑顔全開で手を振って見送っている。

 ああ、嫌な予感は外れない…。



 これ以上ミキティに迷惑かけるわけにはいかないから、突き放されたのはよかったかもしれない。

 それはしょうがないんだけど、いいんだけど、でも、

 目の前のこの人どうしたらいい?


「…あの~、座ったら?」
 ミキティが店を出て見えなくなっても突っ立ったままのあたしに、彼女は言った。
 そうか、うん、とりあえず座ろう。
「で、えーと…い、石川さん、」
「名前でいいよ」
 ミキティも相当ブッ飛んでるけど、初対面の人間に一緒に住もうなんてこの人、
 相当変わってるとゆうかお人好しなのか何なのか。
 人見知りのあたしにルームシェアなんて無理な話だ。


「…あのぉ、」
「うん、なぁに?」
 アニメみたいな高い声が、急に艶を帯びた。
 こーゆーのを猫撫で声ってゆうんだろーか
「あのー、本気ですか?…住んでもいいって」
「うん、あなたさえよければ」
「いや、それは正直すごい助かるんだけど、そのー、やっぱり初対面なのに一緒に住むって、
 何か…そんな迷惑、かけらんないです。」
「平気だよ、部屋余ってるし。」


「や、でも…」


「お金の心配ならいいから」


「いや、あのー…」


「ね、とにかく。困ってるのは事実でしょ?」


「う…はい」


「じゃあ、いいじゃない。ね?」


「……」



 ああ、なにかこの人には逆らえない

 彼女は両手で頬杖を突きながら、含み笑いで返事を待っている…。




 ち、ちくしょー可愛い。

 い、一緒に住んでもいいかな…




「…ね?」


「……はい。じゃあ、…お世話に、なります」





  *  *  *  *  *




 少し肌寒い初秋の夜の中を、ゆっくりと歩いてゆく。
 彼女はマンションまでの道のりを、駅から学校の方角を確認しながら案内してくれた。

 歩きながら彼女は、なにやらぶつぶつと一人で悩んでいる。
「ひとみちゃんかぁ…吉澤、ひとみちゃんでしょ~?
うーん、よっちゃん、よっしー、ひとみちゃん…」
「あの…何でもいーから。てかよっちゃんでいいから」
「えぇーつまんないよぉ!せっかく一緒に住むんだし、何か決めたいじゃない?」
 そーかい…
 なにをそんなに嬉しそうにしてるんだ?この人は…
 一体ミキティはあたしのことをどんな風に紹介したんだろうか。
 妙なまでに好意的なこの視線が逆に怖い。

「あ、じゃあ…ひーちゃん、ひーちゃんは!?」
 何かとても名案を思いついたというような顔であたしの様子を覗う。
 うーん、ひーちゃんですか
「それはあんま、呼ばれないなあ」
「そう?じゃひーちゃんにする。ひーちゃん、あ、何か可愛いね。
 ひーちゃん♪」
 いやそんな呼ぶなって。
 何か、子供みたい…で、恥ずかしい。
「…やっぱ厭かも…」

「えっ…」

 うわ、そんな悲しい顔しないで!ごめん、ごめん
「あ…いや、えと、それでいーよ。…あたしは、梨華ちゃん、でいーかな…」


 ああ、すげー笑顔。





 彼女の歩幅に合わせて、ゆっくりゆっくり駅から徒歩で15分。
「ここがウチだよ」
「わ、でけー!」
 通されたのは、10階建てマンションの広ーい玄関ホール。
「ずいぶんいーとこ住んでますね」
 正直、中流企業のOLの給料で住めるトコとは思えないんだけども。
「うん、でも親戚が経営してるから、お家賃すっごく安くしてもらってるの。
 でもねだからねココほんとに一人じゃ広いんだよ?」
「あ、へぇ…」
 何だ、そうゆうことか。
 てっきり愛人やってて買ってもらった系とかそんなのかと…。
 よかった、そんなある意味いわくつきの部屋だったらやだもんね。

 エレベーターを7階で降りる。廊下を一つだけ曲がった角部屋の705号室。
 ガチャッ。
「あ、鍵。」
「え?」
「ごめん、忘れてた。
 ひーちゃんも鍵ないとだもんね?スペアキー、どこやったっけ…」
 言いながら通された部屋は廊下にいくつもドアがあって、
 2LDKってとこだろーか、確かに一人じゃ広いかも。
 廊下を抜けてリビングに入るとそこは…


 げ!!
 ま…まぶしい…

 ピンクのソファー、ピンクのラグ、ピンクの置物、ピンク、ピンク、ピンク…。
 ばかじゃねぇのこいつ!!よくこんな眩しいリビングでくつろげるな!


 てゆうか、マジで、きったねー…。


 案外ミキティは「家事やったげて」が一番本音だったのかもしれないと思う。
 うーん…これはやりがいありそうだ。
「ごめんね、あの…きゅ、急だったから…」
 あたしが黙ったまま突っ立ってると、
 きったねぇ部屋の主・梨華ちゃんが恥ずかしそうに俯いて言った。
 あたしは満面の笑みで返してあげる。

「…片付けながら、鍵探すよ」


 梨華ちゃんはもっと俯いてしまった。



 とりあえず、ここ使ってと7畳くらいの寝室に通される。
 お姉さんと同居していた時期があったらしく、
 もう使われてないベッドと箪笥まであって何かほんとに普通に暮らせそうだ。
 こんなにお世話になっていいもんかなと思っていると、宅急便であたしの荷物が。
 ミキティ、ほんとに送ってたのか…。
「荷物、それだけ?」
 ボロボロのデカバッグ一つとゆう荷物を見て梨華ちゃんが言った。
「これでもかなり持ち出せた方だよ、てか生きてるだけでかなりラッキー。」
「あ…ごめんね」
「気にしないから。あのさ~、この箪笥とかも使っていい?」
 緊急避難のミキティの部屋に荷物を増やすのは悪いと思ってそのままでいたけど、いい加減服とか買いたい。
 秋口だからこの3週間でだいぶ寒くなってきた。
「いいよ、ひーちゃんの部屋だから。家具とかも買って置いちゃっていいからね?」
「ありがと、ほんと助かる」

 それから一通り部屋の間取りと水周りの使い勝手なんかを教わって、
 さて夕飯どうしようということになって。
 だらしない部屋の割にはキチンとされている台所を見て、
 外食ばっかりしてるんだろうなと思う。
「何か、作るよ」
 と言ったはいいが、「何にも無いよ?」の言葉どおり冷蔵庫には飲み物とヨーグルトだけ。
 これは本格的に家事をやってやらなきゃなあ。



 食材を買いに部屋を出て、散歩しながら買い物しながら、色んなことを話した。
 話したとゆうか、ずっと彼女が喋ってたんだけど。
 マンションの経営者は中澤裕子さんという女性で、遠い親戚なんだけど親しいそうだ。
 梨華ちゃんは三姉妹の真ん中で、短大入学と同時に神奈川から出て来て、
 地元に柴ちゃんという親友がいて。家族のこと地元のこと会社のこと、とにかく喋る喋る。
 一生懸命話してる姿がなんか面白くてちょっと可愛い。
 喋りながら途中で自分ウケして笑い出したり、
 人の話も妙に真剣に頷いてるかと思えば案外聞いてなかったり、
 やっぱり変な人だ。

「ひーちゃんの写メール初めて見たとき、すっごい綺麗でびっくりしちゃった」
「あ、えー?あたしが?」
「そうだよー。スタイルもいいし、モデルさんみたい…カッコいいね」
 そんなこと言われて、何て返したらいんだろう。
 自分のルックスに不満も驕りも特に無いのでこういう類の話は苦手だ。

 てゆうか梨華ちゃん熱っぽい視線で見過ぎ。
 なんだろうコレは、アレか?女子校時代のあの憧れの先輩的なアレなのか?
 なんかもしかしてあたしちょっと身の危険を感じた方がよいのかな?

「あたしもね、正直知らない人と住めるかなって不安だったんだけど、
 美貴ちゃんは大事な友達でしょ、その美貴ちゃんの大事な幼馴染みが困ってるって、
 あたし役に立ちたいなあって思ったの。
 ひーちゃんのことは前から話聞いてたし、
 いい子そうだなって思ったから会うのも楽しみだったの」
 …ほんとによく喋るなあ。

「それで今日会ってみてね」
「うん」

「予想以上に素敵な子だなって思った。嬉しかった」
「…」
 梨華ちゃんは立ち止まってあたしに向き合い、微笑んで言った。

「これからよろしくね」

 あー、ほんと可愛いなあって、心から思ってしまうような笑顔。

 あたしも会えて嬉しいなんて、そんなことは口にしないけど
「こちらこそ、あの、迷惑は掛けないようにするから」
 差し出した手を握りながら梨華ちゃんは、


「ううん、あたしこそ、あの…だらしないから」

 また真っ赤になって俯いてしまう。




  *  *  *  *  *



 梨華ちゃんが「和食がいい」と言ったので、夕飯は豆腐サラダとアジの開き。
 野菜切って魚焼いただけだけど、何だかやたらと美味しい美味しいと感動してくれて嬉しかった。
 広いお風呂に入って、軋まないベッドに寝る。うおー、めちゃめちゃいい生活。

 ミキティ、ありがとう…

 ブーッ、ブーッ、ブーッ。
 寝るとこだったのに…。噂をすれば?ミキティからのメール。


『梨華ちゃんちどお?すっごいいー部屋でしょ!
 そのうち亜弥ちゃんと遊び行くからね~!仲良くやれよ!!



 つーか梨華ちゃん胸でかくない!?』


 …意味わからん。おやすみ






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