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靴がだめならジャージって、何て安易なんだろうと思ったけど、
でも花音に誘われて悪い気はしなかった。
明らかに埋め合わせ的な状況なのに喜んでる自分がちょっと悔しかったけどそれでも良かった。
花音と一緒にいたいって思ったから。


なのに何で結局4人で来てるんだろう。そう思っちゃったら全然気分は上がらなくて、
お揃いで選ぼうって盛り上がってる3人のテンションにとてもじゃないけど混ざれない。
何で、なんて彩花ちゃんと紗季ちゃんには悪いけど、でもそう思わずにいられないよ。
別にそんなに花音とふたりで行きたいってわけでもないけど、ないんだけど。
でもふたりで行くって約束だった筈なんだもん。

「ねぇ憂佳ちゃんは?どれがいい?」
「あー…。うん、どれかなあ」
これとか、あぁでも、って移り気に候補を選び出す彩花ちゃんの横で、
憂佳は上の空でハンガーの曲線をなぞる。
花音はというと誘っておいて特に憂佳には何も聞いてこない。
いつものことだけど。
これ似合いそうなんてときどき憂佳に合わせてくるけど、
べつに憂佳の意見なんて聞きもせずにまたどっか行っちゃうんだ。

紗季ちゃんときゃあきゃあ言いながら、花音は楽しそう。
憂佳は楽しくないんだけどな。
どうしたら楽しいかって、それはわかんないけど。
花音がもうちょっと、何だろう、憂佳と一緒にいてくれたら、嬉しいんだけど。

「あー!これ、岡井さんこんな感じの着てたよねー」
後ろの方で紗季ちゃんが一際大きく声を上げて、それから話題は℃-uteさんのことに。
中島さんが着てたシャツが可愛かったとか、舞ちゃんとお揃いにしようかな、とか、
次から次に花音の口から出てくる名前。
別に嫉妬とかじゃないけど。嫉妬する意味がわかんないし、
でも、何となく気に入らない。
花音が嬉しそうに誰かの話をするたびに憂佳はよくわかんない気持ちになる。
花音が誰を好きだって憂佳には関係ない。関係ないけど、憂佳のことも好きでいてよ。
ていうか、憂佳が一番じゃなきゃやなんだよ。

そんなの花音は絶対に知らなくて、それで花音は何でもわかったふりして憂佳を見るけど、
でも全然わかってない。
きっと花音が思ってるより憂佳は花音のこと、好きだよ。いつも見てるよ。
何にもわかってない花音に、どうしたら伝わるのかな。
念じるみたいに向こうにいる花音を見つめてみる。少し睨むくらいに。
横顔だった花音が、すっと振り向いてまっすぐに憂佳を見た。
とことこと憂佳のそばまでやってきて、決めた?って笑う。

「…まだ、全然。ていうかあんま見てないや」
「えー?なんで、憂佳の好きなお店来たのに、」
「かのんのせいだよ」
「はぁ?なんでよw」

約束破ってばっかりだもん。かのんのせいだよ。

また少し睨むみたいに花音を見つめる。
かしゃんかしゃん、てハンガーを滑らせる花音の手が止まった。

「花音とふたりで来たかったな」

はっきりと、花音の目を見て言ってみる。
花音は何て言うだろうと思いながら答えを待つ。

「そっか」
呟くみたいにそう言って、視線を外された。
こんなこと言ったら普通さ、なんでとかどうしてとか、もっと勘繰ってくれたらいいのに。
何でそのまま受け止めちゃうかなあ。またそうやって何でもわかったふりして、
でも憂佳がどんな気持ちで言ったかってわかってないくせに。
これじゃ何か、憂佳が花音のこと、好きみたいじゃん。
好きだよ。好きだけど…

じゃあいつ行く?って、花音は普通のトーンで聞いてくる。かしゃかしゃとまた手元のハンガーを滑らせる。
待ってよ、そんな勝手に話進めないでよ。何でふたりで行きたいかって、
憂佳がどういう気持ちで花音と一緒にいたいかって、聞いてよ。ねえ。
聞かれても答えられないけど、憂佳のこと知ろうとしてよ。

何も言えなくて口を結んだままの憂佳を見上げて、花音がふって目を細めて笑った。
この笑い方が好き。
好きだから、ますます何にも言えなくなる。

「ほらー、ゆうかりん元気出して」
冗談の口調で、花音の両手が憂佳の頬に触れた。
避ける暇も無かったからあっさりと触れられてしまった。
でも今この瞬間の花音の意識は、そこらじゅう色とりどりに並べられた服達じゃなく、
紗季ちゃんでも彩花ちゃんでもなく、中島さんでも萩原さんでも他の誰でもない、
たぶん憂佳だけに。向けられてると思うと悪い気はしなかった。

「ねえ、憂佳」
「うん、元気でた。ありがと」
「うそぉ」
「ほんと。」

頬を包む花音の手に、片手を添えてみる。
憂佳より少し小さくて、柔らかくて、今日は冷たくないみたい。
花音は不思議な顔して憂佳を見てる。瞳がきらきら光ってて可愛いなと思う。
なにやってんの、と紗季ちゃんの声がして、きらきらの視線はそっちへ行った。
花音はすぐ気が散るから。憂佳の時間はもう終わりみたいだ。

憂佳の手を添えたまま花音の両手が下ろされる。その手をぎゅっと掴んでみる。
ぎゅっと掴んだら、ぎゅって握り返される。
そうするのが当然みたいに、それが憂佳の求める答えみたいに。
もう紗季ちゃんの方へ向いてる後ろ姿はやっぱり憂佳のこと見てくれなくて、
でも、今度は合ってたからいいや。握り返して欲しかったから。







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